いつの間にか1匹ののら猫が歓楽街に棲みついていた。


のら猫は、のら猫としては体格のいいほうなのかもしれない。性格ものんびりしているようで、人が近づいてきても、あまり逃げ出したりはしない。むしろ、人に食べ物を請っているような感じすらある。


のら猫の全身は真っ黒だが、所々傷ついている。


その傷は、恐らく人間の仕業によるものと見て間違いないだろう。


こんな歓楽街に棲んでいれば、それも仕方ないのかもしれない。


日が暮れてから、太陽が昇るまでの間、この街は酒に支配されている。


酔っ払いどうしの喧嘩など日常茶飯事だし、酔っ払って物にあたる人間など珍しくも何ともない。ましてや

その対象が猫であったとしても大した事ではないだろう。


そんな中で、1匹ののら猫がここまで生き抜いてきたと言う事実は、奇跡なのかもしれない。